GoogleがIBMから千件以上の特許権を買ったというニュースがありました(参照ニュース)。Googleは、Androidだけではなく、ビデオコーデックのWebM等でも特許侵害訴訟を抱えており。特許訴訟への対応が全社的優先事項になってますので当然の動きと言えましょう。
一般に、企業が特許侵害で訴訟された場合の対応としては大きく4つのアプローチがあります。
1.否認
特許を侵害していないと主張することです。具体的には自分が販売や生産をしている商品やサービスが侵害の根拠となった特許の技術的範囲に属さないことを立証することになります(これの具体的なやり方については別の機会に書きます)。
2.抗弁
典型的には特許が無効であることを主張することです。特許の出願日前(米国の場合には発明日前)に公知だった文献を探してきて実は特許は無効だったのだ等の主張を行なうことになります。
3.回避
侵害製品の販売や生産をやめたり、設計変更を行なって特許権を侵害しない状態にします。ただし、過去の侵害による損害賠償からは逃れられません。要するに「負け戦」です。
4.ライセンス
訴えた側とライセンス契約を結んで特許発明の実施を許諾してもらいます。ここで、単に金を払うだけではなく、自分の持っている特許で相手を訴える(あるいは訴えると警告する)ことでライセンス交渉を有利に運ぶことができます。通常は、お互いが相手の特許をライセンスし合う契約を結ぶことになります(これがいわゆるクロスライセンスです)。しかし、訴えた側が製品の製造や販売を行なっていない場合には、クロスライセンスの戦略が使えません(相手はライセンスされてもうれしくも何ともない)ので、訴えられた方が圧倒的に不利になります。これが、いわゆる特許ゴロの問題です(これについてはまた別途)。
ということで、他者からの特許攻撃に対してクロスライセンスで対抗するためには、自分もある程度特許権を取得しておく必要があります。つまり、攻撃(できる体制を作ること)こそが特許における最大の防御ということになります。Googleは企業規模で見ると所有特許の数は少ない(700件程度)ので特許ポートフォリオを構築することが急務でありました。
ところで、冒頭の記事ですと、GoogleはNortelの特許オークションで競り負けたのであわててIBMの特許を買ったように見えますが、例のFlorian Mueller氏のブログによれば、Nortelの特許オークションの前から特許権の移転は始まっていたようです。なので、Nortelの件とIBMの件は並行して進んでいたと考えるのが妥当かと思います(そもそも、Nortelのオークションから1か月もたっていないので、NortelがダメだったからIBMというのではいくら何でも時間がなさ過ぎます)。
著作権の場合には公衆の利益(特に米国の場合)やフェアユース規定などを錦の御旗にして強引に事を進めてきた経緯があるGoogleですが、特許は著作権とは異なり企業同士のガチンコ勝負なので、同じような戦略は使いにくいと思います。なので、今回の動きは賢明でしょう。本当はNortel特許の方を何とか押さえておくべきだったとは思いますが。
なお、特許を売った方のIBMはどうかということですが、Googleとの間の契約によりGoogleはこの特許を元にIBMに権利行使しないという約束になっているはず(これは社外からは見えない企業間の契約)なので大きな問題ではありません。IBM自らがこれらの特許で他者を訴えるという選択肢が使えなくなっただけの話です。
そういう意味でいうと、たとえば、GoogleがIBMから買った特許でAppleを訴えようとした時にAppleとIBM間に別のクロスライセンス契約に特許権不行使の合意があることでそれができない可能性も出てきます。もちろん、この辺は全部加味した上で購入金額を決めているはずです。