国の機関による出願の特許庁手数料は完全無料です(念のため)

そこそこ長い弁理士稼業の中で初めて官庁出願(国の機関による商標登録出願)を受任しました。官庁出願は登録料不要(国から国に払うことになるため)というのは認識していましたが、出願料はどうだったかとちょっと気になったので、官庁による既存の商標登録出願を調べてみると、結構大手の事務所でも出願手数料を支払っているケースが見られます。また、審査便覧にも、特許庁の手数料計算システムにも官庁出願の手数料免除への言及はありません。ChatGPTに聞くと、「結論から申し上げますと、国の機関(官公庁)が商標登録出願を行う場合であっても、特許庁の手数料が免除される制度はなく、通常の出願料や登録料の支払いが必要とされています。」と自信満々に回答してきます。

不安になったので特許庁に聞いてみました。結論から言うと、国の機関による出願では手数料も登録料も一切不要です。根拠条文は、商標法76条3項(手数料)と40条3項(登録料)です(条文に書いてあることを、わざわざ電話で聞いてしまって申し訳なかったです)。ちなみに、特許法では195条4項(手数料)と107条2項(特許料)、意匠法では42条2項(手数料)と67条3項(登録料)です。官公庁は、弁理士に依頼せず本人出願すれば完全無料でいくらでも商標登録できてしまうことになりますが、まあ当然に稟議が必要になるので商標ゴロにならないかといったことを心配してもしょうがないでしょう。

前述のとおり、大手事務所でもこの点を勘違いして官庁出願で手数料を支払ってしまったケースは結構あるようです(補正指令に対応することで返金されるので特に実害はないのですが)。あと、法律関係の調べ物でChatGPTを信頼してはいけないことがよくわかりました。

追記:登録査定には、「30日以内に登録料の納付が必要です」と書いてありますが、国の機関による出願にはこれは当てはまりません(単に共通の文面を使っているだけです)。何もせずほっておけば自動的に設定登録され、登録証(特許証)が送られてきます(特許庁確認済)。

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電子特殊申請の落とし穴(というほどでもありませんが)

2024年1月1日より、電子特殊申請が利用可能になり、それまでは郵送によるしかなかった手続の多くがインターネット出願ソフトからPDFファイルを送ることで行えるようになりました。はっきり言ってめちゃくちゃ便利なので使わない手はないと思います。

新規性喪失の例外の手続、委任状を追加する手続補足書、マドプロ商標の中間処理、ハーグ意匠の中間処理、移転関連手続等をよく使っています。ただし、(識別番号に紐付く)住所(居所)の変更には対応していませんので今まで通り郵送で行う必要があります(そんなに対応が大変とは思えないのですが何でなんですかね?)

また、移転関係でも住所変更は問題ないのですが、譲渡手続は譲渡証書に電子署名を付加しなければならないのでちょっと面倒そうです。従来通り、捺印済みの譲渡証書原本を郵送した方が楽ちんかもしれません。この場合において、譲渡と住所変更を同時に行うパターンがあると思いますが(譲渡前にそれまでに怠っていた住所変更を同時に行うパターン)、このケースではできれば両方とも紙で出して欲しいと特許庁の登録課に言われました。住所変更だけ電子特殊申請でやると紙の書類と担当者が異なるのでかえって時間がかかる可能性があるとのことです。

また、登録住所変更を単独で行う場合には、料金支払いを口座振替でできるので便利です。収入印紙は買いに行くのが面倒くさいですし、万一、間違えて買うと返品が効かないのでやっかいです。万一手続却下になったときの返金手続も面倒です。

さて、登録関係の手続については、申請書に代理人の識別番号が書いてある場合のみに、登録通知がPDFで送られてきます(インターネット出願ソフトの「発送」で受信できます)。これは、電子特殊申請でも同じで、申請書に代理人の識別番号が書いてあればPDFで、書いてなければ従来どおり紙の郵送で登録通知が送られてきます。電子特殊申請の場合は送付票に代理人の識別番号が自動的に記載されますが、それは関係なく、あくまでも申請書に書いてあるかどうかで決まります。登録通知は、PDFでもらった方がおそらく1週間ほど早くもらえると思いますので申請書に代理人の識別番号を書いておくことが大事です(過去に使った書類をひな型として再利用すると忘れがちです)。

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画面領域内の画像を正確にテキスト認識する方法

PowerToysというマイクロソフトが提供する公式ユーティリティセットがあります。便利な機能満載で手放せません。特に便利に使っていた機能の一つとしてText Extractorがあります。スニッピングツールのように画面上の領域を選択すると領域内の画像をOCR処理してテキスト化してクリップボードに保持してくれます。

特に、公報データがイメージ版しかない時にテキスト化してコピペしたい場合などに重宝していたのですが、OCRが文章のコンテキストをまったく理解していないようで、たとえば、for(エフ オー アール)をf0r(エフ ゼロ アール)と認識するようなアホな間違いを平気でします。テキストの修正に結構な手間がかかっていました。

代替の機能として、翻訳アプリのDeepLの「画面上のテキストの取り込み」の方が全然優秀であることがわかりました。無料版でも使えます(設定でオンにする必要あり)。選択した領域のOCRをしてくれますが、ちゃんとAIが機能しているようでスペルミスはまずありません。本来翻訳のための機能ですが、原文を正確にOCRしたい場合でも使えます。

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Thunderbirdでメール作成時にPDFの添付ファイルが開けない問題の解決策

知財に直接関係ない、Thnderbirdの一般的お話しです。

Thunderbirdで受信したメールに添付されたPDFファイルはAcrobatで開けるのに、メールの作成中に添付したPDFファイルの内容を確認しようとするとエラーになり「関連付けを変更してください。」というメッセージが表示されてしまう問題にしばらく悩まされてきました。Acrobatの再インストールをしても直りません。

WordやExcelの添付ファイルは問題ないのでPDF固有の問題です。メールの送信前に添付ファイルが正しいものであるかを確認するのは必須(他人宛のファイルを送ったりしたら大変です)なので、困っていました。

設定でPDFをThunderbirdの内部ビューアーで開くようにすれば一応解決しますが、そうすると、受信済メールを含めてすべてのPDFファイルが内部ビューアーで開かれるようになるのでちょっと困ります。

Google検索で見ると少なくとも2021年には既に発生していた問題のようですが、日本語のサイトでは解決策は見つかりませんでした。

しかし、Thunderbirdの言語設定を英語に変えて、エラーメッセージ”Change the association in your preferences.”で検索するとすぐ答が見つかりました。設定エディターでpdfjs.disabledをtrueにすれば直ります。

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【弁理士の日記念企画(期限徒過)】初学者に知財を教える場合のポイント

期限を1日徒過してしまいましたが、弁理士の日記念企画というということで、知財業界での教育というテーマで書いてみようと思います。

自分は、金沢工業大学(虎ノ門大学院)で10年以上にわたり、知財の入門講座(「知的財産要論」)を担当してきました。8コマ(12時間)で、知財の経験がない学生を対象に、特許・実案・意匠・商標・著作権・不競法を全部カバーするというチャレンジング(教える方にとっても学ぶ方にとっても)な講座です。

この経験の中から、限られた時間内で未経験者向けの知財研修を行う際のポイントについていくつか書いてみようと思います。

①特許においては「手続関連」の話をどれだけ省略できるかがポイント

特許の説明で手続き的な話を始めると時間がいくらあっても足りなくなってしまいます。補正・分割出願・拡大先願(29条の2)・損害論・PCTあたりは実務上はきわめて重要であるのは当然として、初学者にとってはややこしいだけの話なので、そういうものがあるよレベルの説明に留めて、ばっさりカットすべきだと思います。

特許制度の意義、発明(技術的思想)の定義、新規性・進歩性の考え方等にできるだけ時間を割くべきです。

②特許権は禁止権であり、独占権でないことの説明は必須

一般に、特許を取れれば特許発明の実施が保証されると勘違いしている人は多いです。当然初学者でも誤解しやすいポイントです。利用発明、改良発明の話は時間をかけて行うべきです。私は、このあたりの説明は、昔Yahoo!に書いた記事「”特許を取れれば他人の特許権を侵害することはない”ということはありません」のたとえを使っています。

なお、合わせて、商標の場合は、登録商標の使用は保証される(不正競争防止法が関係する場合は別として)点も説明しておきたいです。

③新規性・進歩性の話と特許権侵害の話がごっちゃになる人がいる

公知の技術との共通性により新規性・進歩性が否定されて出願が拒絶になる話と、他人の特許発明との共通性により自分の技術の実施が特許権を侵害する話がごっちゃになっている初学者が一定数いるようなので注意が必要です(これは、ある程度知財を勉強した人でもそうで、たとえば、「この出願をすることでxx社の特許権を侵害することはないか?」といった問い合わせをしてくる方もいたりします)。

④特許の例としては実際の特許公報を使いたい。

発明は自然法則を利用した技術的思想の創作である、とは言っても正直イメージしにくいですよね。かと言って、「末端に消しゴムを備えたことを特徴とする鉛筆」のような(新規性要件を無視した)架空の例もイマイチだと思います。ということで、最近は、実際の特許公報を例として使っています。

公報の選択には気を使うところです。あまりに複雑で技術の説明に時間を要してしまうのもまずいですし、たまに見られるアホみたいな特許でも問題です。具体的イメージがしやすく、説明も容易で、かつ、特許としての有効性がわかりやすい公報として、最近は無印良品(良品計画)の6445744号(「リュックサック用肩紐及びそれを備えたリュックサック」)を使っています。技術の内容と優位性については無印のサイトでもわかりやすく説明されているので例として使いやすいです。

追記:公報を例に使って、クレームの構造とオールエレメントルール(権利一体の原則)について絶対に説明しておきたい所です(一般的な特許入門書でこのあたりに説明がほとんどないものがありますよね)。

⑤実案・意匠は特許との差分の説明で時間を節約

初学者向けの講座であれば、実案は特許のライトバージョンで無審査登録制がポイント、意匠は特許の工業デザイン版といった説明ではしょってしまってよいと思います。

⑥商標は「識別性」が最難関

特許と比較して商標は比較的イメージしやすく、理解も容易と思うのですが、「識別性」(商標機能論)の説明が最難所かと思います。伝統的な「巨峰」判例を使って説明したりしていますが、どこまで理解してもらっているか正直不安なところがあります。

追記:識別性に関する他の例としてLADY GAGA事件を説明したりもしましたが、かえって学生の混乱を招いたような気がしてきました。そもそも境界領域であって意見が割れがち、日本の審査運用が世界的に特殊、栗原としてもイマイチ納得出来ないwという理由により、説明例としては使わない方が良いかもしれません。

⑦著作権もどこをカットするか勝負

特許の場合と同様、著作権も全部説明していると時間がいくらあっても足りませんので、どこをカットするかが勝負所です。自分としては、著作者人格権と著作隣接権は大幅カット、損害論もカット、支分権は複製・上演・譲渡・公衆送信のみ説明、権利制限は私的複製と引用のみ説明という感じでしょうか?著作権制度の意義(自然権vsインセンティブ論)、二分論(表現vsアイデア)、支分権の構造等に時間を割きたいところです。

また思いついたら追記するかもしれません。

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