コルシカと他のサービスを比べてみる

やはりコルシカについては雑誌協会側が差止要求を出し、コルシカ側がそれに応じたようです(参照記事)。まあ、これは当然で、警告後も無視して販売を続けていれば刑事事件に発展する可能性もないわけではなかったと思います。ただ、興味深いのははてブ等や掲示板等を見てみると「こういうサービスがほしかった」という意見が結構見られることです。この消費者ニーズを無視すれば雑誌業界は凋落の一途でしょう。実際、一部有力誌が共同して雑誌デジタル配信を目指す動きもありますが、2011年の事業化を目指すということでまったく「速さが足りない」状況です(参照記事)。

さて、コルシカそのものの話はちょっとおいておいて、今までに著作権で物議を醸した他のサービスとちょっと比べてみましょう。

貸レコード:
貸レコード屋が始まった当所は買ったレコードを貸与することを禁止する法律がありませんでした。まさに法律の抜け穴を利用したと言えます。その後、貸しレコード業界と権利者側がすったもんだした上で、著作権法改正により貸与権が制定され、レコード会社側に利用料が回るようなルールにすることで、貸レコード業は一応お墨付きをもらいました。ところで、法律上はレコード会社側は新譜発売1年間はレンタルを禁止できるのですが、現実には(国内レコード会社は)その権利をフルに行使していない(新譜発売後3週間程度のみレンタル禁止にしている)ことから、権利者側もCDレンタルの価値をそれなりに認めていることがわかります。コルシカについては、前回書いたように明らかに著作権侵害なので、貸レコードのケースとは全然違います。

Google Book Search:
Google Book Searchはアメリカでの話(集団訴訟とベルヌ条約コンボで結果的に日本の著作権者にも影響が及びましたが)なので、そもそも適用される法律が違います。なお、コルシカ側は「出版社側に不利益が発生していない」ことを主張していますが、これはフェアユースの抗弁的であって、日本の著作権法では意味がありません。日本の著作権法では、損害の発生のあるなしにかかわらず差止請求が可能です(もちろん、出版社側が「損害が発生してないなら訴えるのはやめておくか、あるいは、許諾をするか」と考えてくれるだろうと期待してのことなら意味がありますが)。また、GoogleがGoogle Book Searchを行える根拠は、法律や判決ではなく和解なので、気に入らない人はいつでも離脱(オプトアウト)できます。ということで、権利者の承諾なしに勝手にスキャンしたという点では似てますが、ケースとしては全然違います。

それから単行本の場合は作者が権利を持つことが多く出版社が著作権(=侵害に対して訴えることができる権利)を持つことは少ないですが、雑誌の場合には出版社に著作権(編集著作権)がありますので、この辺の事情も違います(Google Book Searchでは雑誌は対象外)。

MyUTA:
自分のCDをサーバ経由で携帯に転送するサービスですが、「コピーをする主体はユーザー自身であるが、ただし、コピー機のケーブルがすごく長くてネットのむ向こう側にあるだけ、なので著30条の私的使用目的複製の要件に当てはまる」という理屈は一応納得できます(裁判で否定されましたが)。なお、公衆送信権についての議論もありますが長くなるので省略します。他にも、録画ネット等々類似の事例はあります。これまた、細かくなるので省略しますが、サービス提供者側は「行為を行なっているのはユーザー、あるいは、送信は特定のユーザーにしか行なっていない」ことを根拠にサービスの合法性を主張していました(裁判によって認められたり認められなかったりしています)。ということで、「ユーザー自身が複製を行なっている」と見ることができないコルシカのケースとは違います。

YouTube等のCGMサイト:
サービス提供者は「アップロードを行なっているのユーザー自身なので事業者に責任はない」という理屈で合法性を主張してきました。この主張は基本的に認められて米国ではDigital Millennium Copyright Act、日本ではプロバイダー責任制限法として制定されました。(なお、これらの法律はプロバイダーに対する免責を定めたものであって、アップロードを行なっているユーザー自身が法的責任を負うのは変わりありません)。これまた、コルシカのケースとは全然違います。

ということで、今までにあった「著作権上の問題」→「裁判沙汰」→「それなりに落としどころが決まる」という事例は、「グレーゾーン」とか「法の抜け穴」的なところから始まっています。その一方で、コルシカはこのような理屈付けが著しく困難であり、落としどころも何もないのではないかと思います。

しかしながら、冒頭にも書いたように、この種のデジタルサービスの利便性をユーザーに認知させ、正規サービスの出現を後押しする結果になれば、結果的にはコルシカの存在も全く無駄ではなかったと言えるかもしれません。

ところで、次回からは何回かOracle Open Worldの模様をお届けします。第1回はたぶんSun Microsystemsによる基調講演になります。お楽しみに。

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3 Responses to コルシカと他のサービスを比べてみる

  1. ピンバック: 10月12日 今日のTop「ネット史上最大の惨事のひとつ発生―Microsoft Danger、T-MobileのスマートフォンSidekickのユーザーデータのすべてを失う」 | P2P today ダブルスラッシュ

  2. yutakarlson のコメント:

    ■オンライン雑誌閲覧サイト「コルシカ」、一時サービス縮小へ? 逆の見方をすれば、実は素晴らしい販促になるかも?
    こんにちは。このサイト初めて知ったとき、「素晴らしい!!、黒船の来航に匹敵する大変動!!」どうやって出版社のコンセンサスを得たのかと思い、それを知るためもあって早々登録してしまいしまた。しかし後で、必ずしもコンセンサスを得ていなかったと知り、多少がっかりしました。しかし、このサイトのやっていることは、先駆的で挑戦的だと思います。GoogleBooksも似たようなことで、全世界的に物議をかもしています。全出版物のデジタル化は時代の趨勢だと思います。印刷媒体主体の出版社側も、既得権益にばかりこだわらず、いずれ何らかの形で歩み寄ることが、生き残りの条件になってくると思います。詳細は、是非私のブログをご覧になってください。

  3. ピンバック: コルシカと他のサービスを比べてみる | 栗ブログ | 特許ニュース・知的財産ニュース[特許業界・知的財産業界情報トップス-過去ログ書庫]

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