広瀬香美さんのtwitterの誤読言葉「ヒウィッヒヒー」(小文字tのロゴをカタカナのヒと読み間違えた)が商標登録出願されたというニュースが(ネット界のごく一部でではありますが)話題になりました。そもそも、商標登録出願されたという話自体が誤報だったようですし、「ヒウィッヒヒー」自体が一発芸のようなものであまり引っ張るようなネタではないと思いますが、ネット系メディアやネット住民に依然として商標制度の根本的なところが理解されていないという感がありますので、このエントリーで簡単に説明しておきます。
複雑な話は省略して基本中の基本だけ書きます。
1.商標権は特定の言葉や図形を「商売で」かつ「商品・サービスの出所を表わす」ために独占的に使える権利
最も重要なポイントは、商標権はあらゆるシチュエーションで言葉・図形の使用を制限できる権利ではないということです。そもそも、法律上、商標とは「商売において」、「製品やサービスの出所を表わすために」使うものと定義されているので、この2条件を満足しない場合には商標権は関係ありません、なお、簡単のために「商売で」と書きましたが、正確には、非営利事業も含みます(法律の文言上は「業として」)。
たとえば、ビッグマックはマクドナルド社の登録商標ですが、別に日常会話やウェブ上で「ビッグマックおいしいねー」とか書いたり、言ったりするたびにマクドナルドの許可がいるわけではありません。許可が必要なのは、商売としてビッグマックというハンバーガーを作ったり、売ったりすることです(もちろん、マクドナルドが正規のライセンサー以外に許可することはないでしょう)。また、当然ですが、たとえば、ビッグマッキンという名前のサンドイッチやビッグマックコーラという名前のコーラを勝手に作ったり、売ったりするのもダメです。商標権の効力は類似範囲にも及ぶからです(類似にもグレイゾーンがあるのでよく問題になりますが)。
なお、商売で使う場合でもその製品やサービスの出所を表わすために使うのでなければ商標権は及びません。たとえば、プロの小説家が小説内でビックマックを登場させても商標権には関係ありません(業界の礼儀としてお断りを入れておくというのはあるかもしれませんが)。
2.商標権を取得したからと言って他人の使用が禁止されるとは限らない
商標権は著作権などと同じく独占的権利ですが、これは、常に、他人の使用を全面的に禁止したり、金を取ったりすることを意味するわけではありません。他人に使わせようが、禁止しようが、金を取ろうが、取るまいが、商標権者の自由ということです。典型的なケースが「ひこにゃん」です。「ひこにゃん」の商標は彦根市に申し出さえすれば無料で使用可能です。
ということで、商標登録出願したからと言って出願人が商標の使用を独占しようとしているとは限りません。重要なのは、取得した後でその商標権をどう使うかです。
3.一般名詞、他人の著作物を使った商標、有名人の名前・略称等々は仮に商標登録出願しても登録されない
商標法には「こういう商標は登録されません、万一登録されても後で無効にされます」というケースが数多く列挙されています。典型的には、一般名詞、他人の著作物、(他人である)有名人の名前・略称などは登録されません。要するに、常識的に考えてこの言葉・図形をこいつに独占させちゃまずいだろという商標は登録されません。
たとえば、「クラウドコンピューティング」、「生キャラメル」は拒絶が確定しています(「生キャラメル」は田中義剛氏が個人で出願)。ただし、グレイゾーンはあります。たとえば、「グリーンデータセンタ」はNTTデータの登録商標となっているため、他社は環境適合性に配慮したデータセンターのことを「グリーンなデータセンター」等と表記することで回避しているようです。
4. とりあえず商標登録出願してみるというのは企業によくみられる行動である
商標登録出願は手数料合わせても最安で10万円もかかりませんので、登録されるかどうかわからないがダメ元で出してみる(特に上記3.のグレイゾーンの場合)、他社に取られると困るので防衛的に出してみるというのはよくあるパターンです。あまりにもひどいケースは別として、非難するのには当たらないと思います。
他にも書いておきたい話がありますが、長くなりますのでまた別途。
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メーカーで特許担当をしています。
特許も侵害かどうかという話になると、途端に皆の理解が追いつかなくなります。技術ではなく製品として特許を取ってる(他社が真似できない)と思われることが多いですね。特許は権利範囲や権利侵害の判定方法が馴染みにくいです。
今回は商標でしたが、こういった分かりやすい解説をしていただけるのは知財の世界に生きる身としてはとても助かります。
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