実を結ばなかったマイクロソフトのタブレット・イノベーション

Facebook経由で10年前の興味深い記事(「マイクロソフト、家庭向け次世代デバイス「Mira」を日本でも発表」)を読みました。2002年のCESの基調講演でビルゲイツが家庭向けのタブレットデバイスMiraを発表したという内容です。

MiraにWindows XPのデスクトップ画面をそのまま表示してExcelなどのWindowsアプリケーションを利用できるほか、ペンやダイヤルでの操作向けに作られたシンプルなインターフェイス「Freestyle」を経由し、TV視聴やPVR(Personal Video Recording)、写真や音楽などのマルチメディアブラウズ、WebブラウズやE-Mailなどを利用することもできる。

ということで、まさにiPadを先取りしていた内容です。マイクロソフトがタブレット市場に大きく出遅れているのは周知の事実ですが、同社は別にこの分野へのイノベーション投資を行なってこなかったわけではありません。おそらくは投資金額で言えばApple以上の投資を行なってきているでしょう。しかし、この分野では今のところ実製品分野のイノベーションに結びついていません。

ここで、当ブログの過去記事(『エスケープベロシティ』解説(第2回):カテゴリー力(2) 〜抵抗勢力に打ち勝ち成長機会に投資する〜) を読んでみてください。そこで紹介されている3ホライゾンモデルの良い事例になっていると思います。(このモデルが有効に使われていないがゆえに失敗したという意味での「良い」事例です。)

2002年当時は、Miraはホライゾン3の案件でした。つまり、5年から10年先を見た成長機会のオプションとしての案件です。これをうまく稼ぎ頭であるホライゾン1の案件に成長させなければいけないのですが、その間の期間であるホライゾン2で十分な投資が行えていないという典型的な問題です。『エスケープベロシティ』を再度引用すると、まさに「ホライゾン1にはホライゾン3の案件が残骸となって流されてくる」状況であります。

過去記事の内容を繰り返しますが、ホライゾン2の案件に十分な投資が行えないのは、現状の稼ぎ頭であるホライゾン1との経営資源の取り合いに負けるからです。ここで、ホライゾン1とは言うまでもなくWindowsとOfficeです。

イノベーションを成功した製品として結実させたいのであればホライゾン2に意識的に経営資源を割り当てなければなりません。それを可能にするのはトップのビジョンとリーダーシップです。残念ながらSteve Ballmerにはそのビジョンとリーダーシップが欠けていたということでしょう。2010年に「タブレットは新カテゴリーのデバイスではなく、PCのサブセグメントにすぎない」等と発言していた(参照記事)ことからもわかってなかったことが伺い知れます。

大企業が新たなカテゴリーを切り開く(そしてそこで成功する)ケースがきわめて少ない最大の理由は企業がイノベーションを行なっていないからではありません現状の稼ぎ頭がイノベーションの成熟化を邪魔することにあります(これは、『ライフサイクルイノベーション』、『エスケープベロシティ』を通じたムーア氏の重要論点です)。

もちろん、マイクロソフトには、Azure、XBox、Kinectなどうまく市場で成功できた製品もあります(これらはマイクロソフトにとって新規分野であり、ホライゾン1との経営資源の取り合いがあまり実問題にならなかったのが幸いしたかもしれません)。もちろん何から何まで失敗したというわけではないのですが、タブレット(そして、スマートフォン)分野での同社の「失敗」から学ぶべきことは多いと思われます。

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