コダックと富士フイルムに見るカテゴリー力の明暗

本ブログでの『エスケープベロシティ』解説記事においてカテゴリー力について触れました。企業が凋落しつつあるカテゴリーから適切なタイミングで撤退し、経営資源を成長カテゴリーに振り向けていくのは生き残りのためにきわめて重要です。しかし、実際にはこれができないわけです。現在の稼ぎ頭であるカテゴリーが凋落し始めてもそこから抜け出すのは心情的に困難であり、結果的に「パーティに長居しすぎた」状態になってしまいます。

前からカテゴリー力をうまく管理できなかったたケースとできたケースの典型例がコダックと富士フイルムだと思ってましたが、タイミング良く英エコノミストのサイトに両者に関する記事が掲載されましたのでこれを引用しつつ、カテゴリー力という観点から見ていこうと思います。

Strange to recall, Kodak was the Google of its day. Founded in 1880, it was known for its pioneering technology and innovative marketing. “You press the button, we do the rest,” was its slogan in 1888.

By 1976 Kodak accounted for 90% of film and 85% of camera sales in America. Until the 1990s it was regularly rated one of the world’s five most valuable brands.

かつてはKodakはGoogleのような企業でした。フィルム市場の90%、カメラ市場の85%を押さえ、1990年代末までは最も価値あるブランドのトップ5に選ばれることも通常でした。

しかし、ニュースでもご存じのとおり、Kodakの最近の凋落ぶりは驚くべきものです。特許権の売却ができなければ破産という段階にまで追い込まれています。最近、AppleとHTCを特許権侵害で訴えたのは(参照記事)特許権の価値を上げる苦肉の策と言われています。

Kodak凋落の理由は言うまでもなく銀塩フィルムからデジタルカメラのシフトに出遅れたことにあります。重要なポイントはコダックが決してイノベーションを行なっていなかったわけではないという点です。そもそも、デジタルカメラも1975年に同社が発明したテクノロジーです。

Larry Matteson, a former Kodak executive who now teaches at the University of Rochester’s Simon School of Business, recalls writing a report in 1979 detailing, fairly accurately, how different parts of the market would switch from film to digital, starting with government reconnaissance, then professional photography and finally the mass market, all by 2010. He was only a few years out.

また、コダックの経営陣はいずれ銀塩フィルムがデジタルに置き換えられていることはわかっていました。わかっていても動けなかったわけです。『エスケープベロシティ』ではこれと同じような状況の企業に対して、誰もが「電車が来るぞ」と叫んでいるのに線路の上から動けない状態とたとえていますがまさにその通りです。

Kodakの過去の成功要因のひとつは安価なカメラを売ってフィルムで儲けるというカミソリ替刃型のおいしいビジネスモデルでした。これがおいしすぎてリスクをかけて新しい世界に飛び込めなかったわけです。また、安価な日本製フィルムによって米国市場が脅かされた時には政治的な圧力で対抗しました。競争の阻害は一時しのぎにはなっても最終的には自分の首を絞めるだけという例のひとつであります。記事中ではKodakのもうひとつの問題として、完璧を求めるあまりスピード感を欠いていたという点も上げられています。

一方、富士フイルムはかつてはKodakと同じようなビジネスを行なっていましたがうまく凋落カテゴリーから抜け出しつつ成長カテゴリーへとシフトできています。同社は、1)既存のフィルム事業の利益最大化、2)デジタル写真分野への進出、3)全く新しい事業創出という3本柱戦略を追求しました。これは、まさにカテゴリー力獲得のベストプラクティスに他なりません(本ブログでも以前解説した3ホライゾンモデルを忠実に実行していると言えます)。結果的に、自社の「クラウンジュエル」である銀塩フィルムのテクノロジーを活かしつつ、デジカメ、LCDフィルム、化粧品などのカテゴリーへのシフトを果たせています。記事中では、古森重隆社長の手腕が高く評価されています。

カテゴリー力の維持が重要なのは言うまでもないのですが、実際にそれを行なうことは、現在のカテゴリーでの自社の状況がおいしければおいしいほど難しいと言えます。Kodakと富士フイルムのストーリーは企業がこの罠にはまらないための良いケーススタディと言えるでしょう。

Kodak, along with many a great company before it, appears simply to have run its course. After 132 years it is poised, like an old photo, to fade away.

元記事は「コダックは古い写真のように色あせていくしかない」とダレウマな表現で締められています。

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